ひとりの夜

6月に入り、いつの間に春が巡ったのかすら気づけずに僕は変わらず、ひとりだ。

 

窓を開けても変わらず、同じ時間に同じ道を歩き同じ生活をする世界の空気が、いやに部屋に舞い込むだけだ。

 

昨日はあったのだろうか、今日はあるのか、明日はどうか。

 

集団を良しとする世界に、抑圧され、歪曲され、疎外されている生に、倣うことも、従うことも、どうしてもできない。そんな僕は、生きるのがたいへん不器用なんだろう。

 

そうしてひとりの夜がきて、それらを遮断した四角い陣地に、唯一の安静を感じている。

 

小さい机上の光は、積み上げられた本と、僕の虚無感を照らしている。冷えたコーヒーも、短くなった鉛筆も、バッハのレコードも、ぼんやり光を受けて寂しく無表情だ。

 

通知を告げるスマートフォンなど今の僕には薄情連絡機器でしかなく、欲望を埋めるものは何もない。

 

頬杖をつき、時計に目をやると3時35分。もう寝なくては、明日も無気力で昼食のミートパスタを食べることになる。

 

ああ、ミートパスタが食べたくなった。深夜の空腹はどうも抑えられない。空腹には慣れきっているのだが、ひとりの夜には囁きがよく響いて困ったもんだ。

 

立ち上がって、冷蔵庫を乱雑に漁る。缶ビールが3本ある。生憎つまみはない。ちくしょー。

 

ええい、とばかりに冷えたビールを、ぐいっと喉に流し込む。

 

ひとりの夜は、滑稽。滑稽。