ふなたび

これからぼくは船に乗って、 誰も知らないところへ行くんだ。 虹色のクジラ。雲まで跳ねるイルカ。 さあさあみんな乗り込んで。 ほらほらおいで。ビルには何も無い。 夢もない。そうだろう? この船は電車にも変わるんだ。 きっと変わるさ。君がいればね。 …

2021/09/08

「言う者は知らず、知る者は言わず」 静かであれ、沈黙であれ、ただ微笑んでいよう。

グッド・バイ

私は偽善に反抗する。 恐ろしさからの大いなる反抗である。 人は人に怯えながら、気をつかって疲れながら死んでいくものなのでしょうか。 恋人にすら偽善を使わざるを得なくなり、 それに付き合いながら死んでいくものなのでしょうか。 結局は私にしか素直に…

無題

私は私でしかない。 あとは先人の思想。 人徳のある人々。

狼の夜想曲

信じられるものは多くなく ほとんどが裏切られることになり 月光さす丘に臆病な狼が泣く その声に耳を貸すものはなにもなく 無数の星も彼ら自身を愛すだけ 戯れる風が唯一の友で それすらも少し冷たい やつれ、ほそく、びくびくとした私のからだ 狂った目は…

気にしないで!

あいつに聞いたよ ずいぶんイカした男と一緒になったんだってね。 いや、そんなこと少しも興味なんてないさ。 あの日から眠れないんだけどね。 幸せになりな。 幸せになりな。 ぼくは大丈夫さ。 気にしないで! さてさて、どうするかな。 窓の外は昨日からず…

きみの花

きみが一粒の涙を流すたび、 きみのための言葉ではなく、 ただ、ぼくのための言葉だったと気づく。 きみが遠く離れるたび、 きみの背中をあたためることもせずに、 ただ、ぼくのからだをあたためようとしていた。 いつしか消えていきそうになったとき、 どれ…

無人島

一日に、すべてを明るく肯定し尽くすような光で照らされることもあれば、こころまで濡らすつめたい雨が降ることもある。まあ、大概は雲がどんより横たわっているがね。 僕はこの島に、なんの意志もなく流されるまま小さな筏でやってきて、いつもいつも浜辺で…

読書について(小さな幸福)

映画やアニメが好きなひと、日常的に観ている人は多い。 けれど「読書が趣味です。」とハッキリ言う人はそれに比べると少ないと思う。 それが良いとか悪いとかではない。 ぼくも映画が好きだし、一部作品によっては熱狂的なアニメオタクだ。 ただ、読書が好…

ホテルのソファにて

古本屋をやろうと思い立って、 そのレールに乗ると決意して、はや1年半。 本々堂に本格的に弟子入りしてからはや4ヶ月。 自分のしたいこと、やりたいことに集中できている日々。いや、集中させてもらっていると言う方が正しい。 祖父母、親、地元でお世話に…

23歳の肖像

毎日、毎日、空はグレーだった。 思いっきり、斜光を突きつける訳でもなく、 嘲笑うように、からだを濡らすのでもなく… いっそのこと吹き飛ばされ、消え去るといいとすら思ってたが、それすらも。 まちに出ても、無愛想な空気に嫌気がした。 通りを歩く人々…

午前4:27

浮かない顔つきで赤信号を待つ。 夜寒に震える子猫のように。 せめて魂は美しくありたいと思う。 これを失っちゃあ取り戻すか死ぬかだ。 生きていても死んだようなやつもいる。 死んだはずなのに生きてるようなやつもいる。 この違はなんでしょう。 信号が青…

初冬の部屋で

文学をたくさん、思う存分に語り合える仲間がほしいのです。さらに言えば、哲学でも歴史でも音楽でもよいのです。 薄っぺらい偽善的な共感や同情などはいりません。ただただ、話す度に空気が高揚してくるような、己の血がうれしさに躍動するような、そんな感…

孤独の前奏曲

静かな書斎で、泣いた。 孤独は案外苦しいもので、逃げ出してしまうことが屡々ある。研がれ磨かれた輝く玉のような孤独を求めているにも関わらず。 お人好しが誰かの前に座らせる。そしてくだらぬ話をふっかける。 私が私自身を飼い慣らすこともできず、逃げ…

夢の旅

朝起きて、歯を磨き、会いに行く。 秋は静寂、静寂、静寂。 このまま、どこかの果てへ行きたいものだ。 人にはとっくに、倦怠した。 本を抱えて、ひとつの歌を口ずさみ、 古びた革靴が破れるまで。 こころが、わたしが、枯葉のように散っていくまで。 あても…

秋の松風園にて

小さな庵の庭を、ゆっくりゆっくり歩く。 ズボンのポケットに、少し冷えた手先を温めながら。 横顔にさした秋の夕焼けが、遠くの山の上から広がってくる。 庭の木々や鳥たちまでも、今日を懐かしく思っている。 目を空に向けると、枝先の真っ赤な紅葉が、秋…

分からないこと

僕には、世間一般の形式が理解できない。 いや、分からない。 それによって何が生まれ、何の利益があるのかが、分からない。 人は悠々自適な生活と精神を望んでいるはずなのに、何か目に見えぬ恐ろしい魔物の奴隷となっている。 それをなんとか無意識に目隠…

ぼくの部屋

ぼくの部屋は、全ての俗世界から遮断された 唯一の芸術的な異空間に満ちている。 棚には書籍が並び、並び切れないものは積み重ねられている。 その表情は叙情を帯び、太陽が輝くときには溌剌とし、雲が覆う日にはうつむき気味だ。白い雨が降ると、それらはは…

23歳のちいさな蛍

情けないことだが、吹っかけた。 エゴイズムを吹っかけた。 彼女のこころを視ることもなく、 幼稚な言葉が、どくどくと 口から溢れ出す。 瞳はかすかに白くなり、暗くなり、 彼女は濡らした、こどものように無邪気な目を。 涼しい山脈のような、大人しい目を…

浜辺の男

浜をゆったり歩く男が 小石を拾って、ああ、まあるいと言う。 山高帽に月光が降り注ぎ 煙草の煙はたかく揺らぐ。 男はふと思い出す。 彼女を…やさしい花のような彼女を。 小石をようやく月に放り、 さらばと告げるは彼の過去? 僕はそれを窓から眺め、 晩夏…

彼は自分を知らなかった。

彼は自分を知らなかった。 自分の影がどんなに薄いかを知らなかった。 彼は自分を知らなかった。 傷ついたとき、相手を憎んだ。 彼は自分を知らなかった。 名利私欲の世界しか歩いてこなかった。 彼が自分を知ったとき、 一輪の花を愛し、人を愛し、自分を愛…

忘却と追憶

これまで、どれだけのハーパーロックを頼んできたのだろう。 大げさに数えて三百回くらい? まあとにかく、ぼくは程よく酔ってて、外は静かに、激しい雨だ。 過去は、絵の具に水をたっぷりつけた筆をかき混ぜるように、朧気で、儚いものである。しかし、断片…

ひとりの夜

6月に入り、いつの間に春が巡ったのかすら気づけずに僕は変わらず、ひとりだ。 窓を開けても変わらず、同じ時間に同じ道を歩き同じ生活をする世界の空気が、いやに部屋に舞い込むだけだ。 昨日はあったのだろうか、今日はあるのか、明日はどうか。 集団を良…

いやだと言えぬ空の下

いやだと言えぬ空の下。 いやだと言えば廊下に立たされ、 先生は、えへんとおおいばり。 それでぼくは悲しくって、うつむいて、 偽善教室のとびらをたたく。 それで先生は、ふんっとぼくを見下して 空の下とはこんなものかしら。 絵をかく時間に、ぼくはまち…

時代

ながい時代がありまして、 緑は心を映えている。 ながい時代がありまして、 海は変わらず夕陽をうつす。 ながい時代がありまして、 雪は郷愁を積もらせる。 ながい時代がありまして、 人は人を変えようとした。 ながい時代がありまして、 人は装飾に凝りすぎ…

夜街のデート

あなたの雪のように白い足が、 まちの灯りを魅了する。 下品な電光看板も あなたの微笑に目がくらむ。 楽譜のまちを歩いてく。 ト音記号がきみの右手で ヘ音記号が左手で 小さな指輪は星を誘う。 漆黒の長い髪はヴァイオリン。 甘い香りは花束となって アス…

もしも明日がこなければ

もしも明日がこなければ、 母の手を握るだろう。 もしも明日がこなければ、 おばあちゃんと散歩するだろう。 もしも明日がこなければ、 故郷を自転車で駆けるだろう。 もしも明日がこなければ、 四弦を空に奏でるだろう。 もしも明日がこなければ、 並んだ本…

ごろごろ

ぼくはいつでもごろごろしていたい。 太陽が起きなさいといっても、 月が寝なさいといっても、 ごろごろごろごろしていたい。 本をまくらにして、 本をふとんにして、 音楽のベッドはふかふかだ。 昼はコーヒーで、夜はウイスキーで 健康はだいじょうぶ。 そ…

深夜の雨

騒がしい街が眠った深夜に、 突然、ごーっと降り出した雨。 布団のなかで、天井を見つめていた僕は 手を取られるように、寝床を抜け出し、窓をあける。 「未来へ」という名の蔓橋で怯える僕に、 その音は優しく紛らわせてくれて、涙も雨に溶けていく。

二十三歳、溺れる

三島由紀夫の「潮騒」を、こんな時間まで ただただ、黙々と、読んでいた。 言葉を、文学を、精神から愛しているんだと強く、強く感じる。 生きてるって思える。 生きようと思える。 僕はまだ子どもで、言葉に対して不器用で、 小説や詩に触れる度に、贅沢な…