秋の松風園にて
小さな庵の庭を、ゆっくりゆっくり歩く。
ズボンのポケットに、少し冷えた手先を温めながら。
横顔にさした秋の夕焼けが、遠くの山の上から広がってくる。
庭の木々や鳥たちまでも、今日を懐かしく思っている。
目を空に向けると、枝先の真っ赤な紅葉が、秋の風に揺れている。
あおいあおい大きな舞台のなかで、彼らが楽しそうに話をしているようだ。
そうして彼らも、いつかは緑の地面にはらはらと落ち、生を終えるのだ。それでも、彼らは赤いいのちを残して…
そこまで思って、ようやく今年の秋を知る。
金縁眼鏡を通して見た叙情的な色彩や、からだに触れる空気は、遠くの故郷を思い起こさせる。
紅葉をひとつ拾って、ポケットにしまった。
孤独な秋を、思い出すために。