無人島

一日に、すべてを明るく肯定し尽くすような光で照らされることもあれば、こころまで濡らすつめたい雨が降ることもある。まあ、大概は雲がどんより横たわっているがね。

 

僕はこの島に、なんの意志もなく流されるまま小さな筏でやってきて、いつもいつも浜辺でしょんぼり座り込んで、頭上を無邪気に飛びまわる鳥を眺めている。

 

時には、いや、日に幾度かは誰かが遠くの沖からやってきて、僕を見つけては話しかけることがある。その度に僕はびくびくとしながらため息混じりに「どうも」と小さく答える。話しかけてくる人々の誰もが、能天気でなんにも悩むことがなさそうに見える。

 

昨日の曇った暮れがけのころ、僕の横にどさっと横暴に座った男は汚れたリュックサックからウイスキーの瓶を取りだし「まあ、飲みたまえ。せっかくの縁だ。」と、底から丸裸で出てきた埃がかったグラスをぼくの手に渡し、どぼどぼと注いだ。そしてワハハッと歯をむき出しながら快活に、学生のころの色情の話やら、日々の事業がいかに偉大であるかを語り聞かした。

 

はじめは、ぼそぼそと相槌していたが気がつけばまた鳥を見つめていた。鳥は鳥であることが幸せなんだろうか、と考えたりしていた。

 

「君、サ、飲みたまえよ。どうだい楽しくなるだろう。」男はもう顔を赤くしている。僕はそれでも、ちらっと男に微笑を投げただけでぼんやりしていた。すると男が「君はなにを考えているんだ。」とぐわっと酒くさい顔を近付けてきた。

 

「なにを、なにをでしょうかね。とにかくひとりでじっとしているのがいいんです。」と僕が言うと「なんだ、せっかくうじうじしてるところを晴らしてやろうとしたのに。きっと君はなにも成すことができん人間だな。」と気焔に任せて言い放ち、立ち去っていった。

 

この島に来てからそんなことばかりだ。僕はさらっとした砂を握って立ち上がり、空を悠々と飛ぶ鳥に投げつけた。もちろん届きはしなかった。

 

涙が溢れた。が、もうどこにも、行くあてもなく、またしゃがんだ。