今日も怠惰

いつものように窓際の席につく。

 

昨晩は、机の上でぼんやりと時間を、四角い部屋を、静寂を見つめていた。

気づけば夜明けに近づいていて、無理に造作した眠りについた。

 

街飛ぶカラスの声に、目が覚めた。

不思議といやらしい感じはしなかった。

時計を見れば、11時36分。怠惰とはこういうことだなと笑ってしまう。

 

ふらふら揺らぐ僕の頭と反対に、太陽は人々を祝福している。元気だなあ、よしよし。

 

髪の毛がずいぶん伸びてきた。耳にかかってきた。元からのくせ毛がどこか太宰っぽくて粋になる。

 

歯をごしごし磨いたら、太陽に負けないくらい今日を謳歌してやると思えた。

そして、意気揚々といつもの店に向かった。

 

目覚めの一口、コーヒーが沁みる。

怠惰も悪くないもんだ。

内田百閒の短編をひとつ読んだ。文も今日を生きている。あんしん、あんしん。

 

窓の外をぼんやり見つめる。

明日のことをすっかり忘れてる。

今日は今日でしかない。今は今でしかない。

怠惰も悪くないもんだ。

 

ぎこぎことおやじが店の前につく。

雑に自転車をとめる。

そこに婦人ふたりが、やってくる。

どうやら知り合いらしい。

婦人のひとりは、たいへん陽気だ。

 

「お茶でもしましょう。」

おやじが言う。婦人たちも自転車を、こちらは丁寧に止める。

午後の、あたたかい風と一緒に入ってくる。

その風は僕の鼻を茶化してきた。

 

おやじと、婦人ふたりと、

僕と、マスターと、風と。

店内はとってもやさしいジャズが流れる。

 

怠惰も悪くないもんだ。

人間も悪くないもんだ。

今日も悪くないもんだ。

明日もきっと悪くないもんだ。